--米国における公的会計の監査システムの核心部分はボウシャーさんの院長時代にできたのですね。
「企業会計の監査システムは大恐慌(1929年)後の30年代の不況期に確立された。ところが、中央や地方の政府の会計は、70年代半ばまで内部監査だけで、外部からのメスは入らなかった」
「きっかけになったのは75年に起きたニューヨーク市の財政危機だ。連邦政府は救済融資を行う一方で、外部による監査を経た会計報告を毎月、財務省に提出することを要求した。その後、連邦政府が一定額以上の補助金を出している州政府や大都市に対しても、同様の要求を出すよう担った」
世論が明朗化要求
--連邦政府の会計については。
「私が81年,GAO院長に就任して以来、ガオの監査を主要省庁が受け入れるよう議会側から圧力をかけ続けた。政府側がやっと譲歩し始めたのはブッシュ政権の下でだ。国防総省の不正会計事件、不動産バブルの崩壊による多数の貯蓄貸付組合(S&L)の倒産、財政赤字の増大などが重なって、政府会計の明朗化を求める世論が高まったことが大きい」
「対象表」最も重要
--公的会計基準のポイントは何ですか。
「貸借対照表(バランスシート)の導入が最も重要だ。レーガン政権時代、国防予算が約2倍に増えた。問題は兵器が有効に使われているかだ。実際は倉庫で眠っている武器が約3倍に増えた。このようなことは、単年度ベースの収支会計による年次決算報告では分からない」
「隠れた負債もバランスシートを義務づければ国民の目に明らかになる。例えば軍人年金関係の巨大な負債だ。18歳で軍に入り、20年後に退役すると、給与の50%に相当する年金を終身保証される。空軍では、すでに現役に対する給与より退役軍人への年金の支出の方が多い。年金会計は巨大な負債を抱えているはずだが、単年度の収支会計ではなかなか表面化しない」
「場乱視シートの義務づけは94年の法改正で決まり、97年度決算から実現する。来春、大統領がサインして公表する年次決算報告が楽しみだ」
「第二のポイントは連結決算だ。すべての主要省庁の連結決算をしない限り、全体像は浮かび上がってこない。この点も企業会計と同じだ。企業会計との違いがあるとすれば、企業では、建物、機械など大部分の資産の減価償却が必要なのに対して、政府会計では、軍艦など一部の兵器や、ワシントン記念塔のようなものに償却は扶養という点だろう」
3Eの観点で評価
--GAOは収支と資産の監査をする際、政策や予算にも言及しますか。
「当然だ。政府の政策とその執行を監査するにあたって、GAOは3つの基準を持っている。効率性(efficiency)、有効性(effectiveness)、経済性(economy)だ。例えば、60年代から不況になるたびに、各省庁は競って就業再訓練プログラムを作り、一時、130にも達した。これらの計画全体を3Eの観点から評価し、改善を求めた」
--GAOが政府でなく、議会に属している意義は。
「独立性の確保だ。院長は大統領に指名されるが、最高裁長官と同じ15年間の任期が保証される。検査員予算に行政府は関与できない。GAOが政府内部にあったら、バランスシートや連結決算の導入は実現しなかっただろう」
--日本に対するアドバイスを。
「行革を進めるにしても、行政の効率性や有効性を測る基準がなくてはどうにもならない。米国人から見ると不思議な気がする。ただ、米国民だって公的会計の明朗化の必要性に目覚めたのはニューヨークの財政危機以来だ。日本国民も政府と地方自治体に粘り強く要求すれば実現できるはずだ。米国にいい見本があるのだから、まねしてほしい」
【朝日新聞 1997年7月13日(日)朝刊】
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行政改革会議の論議が来月、ひとつのヤマ場を迎えようとしている。ところが、行政が国民のためになっているのか、効率性は高いのかなどを測る基準や、そのための組織については、議論のテーマにすらなっていない。そこで「公的会計検査の先進国」である米国の現状と日本へのアドバイスを、ボウシャー米会計検査院(GAO)前院長に聞いた。
(編集委員・早房長治)
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米国会計検査院前院長
チャールズ・ボウシャー氏
Charles Bowsher 米国の大手公認会計士事務所アーサー・アンダーセンのパートナー、海軍省勤務などを経て、1981年から90年まで米会計検査院(GAO)院長。現在は大手企業十数社の社外重役などを努める。66歳。
GAO (General Accounting Office)
1921年、予算・会計法によって予算局が財務省からホワイトハウスに移されるのと同時に、GAOも財務省から分離されて議会に属する機関となった。予算への大統領の力が強まったのに対して、議会の監視を強化する狙い。
現在の職員数は3500余人。公認会計士など監査の専門家のほか、科学者、エコノミスト、軍事などあらゆる分野の専門家を抱える。海外オフィスは主として、米軍の予算支出が適正かどうかを監視する。
監査と改善勧告のほか、政府に情報を提供し、政策を分析することも大きな役割となっている。
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